STORY.№3:サービスの罠

ある企業の営業部に勤める佐藤(仮名)は、毎日遅くまで残業を強いられる日々を送っていた。
上司の田中(仮名)は、部下に対して厳しいことで有名で、特に佐藤に対してはその傾向が顕著だった。
田中は「サービス残業は当たり前だ」と言わんばかりに、佐藤に無理難題を押し付けていた。

ある日、佐藤は「今週中にこの契約を取ってこい」と言われた。
契約書は山のようにあり、締切は迫っていた。
佐藤は「でも、今週はもう残業が…」と口ごもると、田中は冷たい目で彼を見つめた。
「仕事ができないのはお前のせいだ。もっと頑張れ!」

その日から、佐藤は毎晩遅くまで会社に残り、休日も出勤する羽目になった。
彼の生活は仕事だけで埋め尽くされ、友人や家族との時間は消えていった。
そんなある日、彼はふと自分の人生を振り返り、何のために働いているのか分からなくなった。

「このままじゃダメだ」と思った佐藤は、同僚の山田(仮名)に相談した。
「田中さんが厳しすぎて、もう限界なんだ。どうしたらいいと思う?」山田はため息をつきながら言った。
「俺も同じだよ。だけど、田中に逆らうのは危険だ。何かあったら、すぐにお前が責任を取らされる。」

その言葉に佐藤は愕然とした。
彼は自分がどれだけ無力であるかを痛感し、ますます絶望感が募った。
しかし、心のどこかで「何か変えなければ」と思っていた。

ある日のこと、佐藤は思い切って田中に直談判することにした。
「田中さん、もう少し部下に対して理解を持っていただけませんか?私たちも限界です。」
田中は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷笑を浮かべた。
「お前、何言ってるんだ?お前の代わりはいくらでもいる。そんなことを言うなら、辞めてしまえ。」

その言葉に佐藤はショックを受けたが、同時に怒りが湧き上がった。
「もういい!辞めてやる!」と叫び、会社を飛び出した。
しかし、外に出た瞬間、彼は自分の選択がどれほど無謀だったかを理解した。
収入がなくなれば、生活が成り立たなくなる。彼は再び会社に戻ることにした。

だが、田中は佐藤の帰りを待っていた。
「おかえり、佐藤。お前が戻ってきたのは良い判断だ。
さあ、今週の契約を取ってこい。」佐藤は心の中で叫んだ。
「もう無理だ!」しかし、彼は口をつぐんだ。

日々の業務は続き、佐藤の心は次第に疲弊していった。
ある晩、彼はついに限界を迎え、帰宅途中に倒れてしまった。
病院に運ばれた彼は、医者から「過労です。しばらく休む必要があります」と告げられた。

しかし、田中はそんなことを気にしなかった。
「休んでいる間に、他の奴に仕事を取られるぞ。お前は休む暇なんてないんだ。」佐藤は再び絶望に沈んだ。

数ヶ月後、佐藤は体調を崩し、結局会社を辞めることになった。
彼は新しい職を探すも、過去の経験が響き、なかなか決まらなかった。
貯金も底をつき、生活は困窮していった。

ある日、彼は街を歩いていると、ふと目に入った求人広告。
「未経験者歓迎、やる気のある方大募集!」その文字を見て、彼は一瞬希望を抱いた。
しかし、次の瞬間、田中の冷たい笑顔が脳裏に浮かんだ。
彼はその場で立ち尽くし、再び絶望に沈んだ。

結局、佐藤は仕事を見つけることができず、孤独な日々を送ることになった。
彼の心には、かつての情熱や夢は消え去り、ただ無力感だけが残った。

そして、彼はふと気づいた。
自分が求めていたのは、仕事ではなく、心の安らぎだった。
しかし、それはもう手に入らないものとなってしまったのだ。

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